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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)204号 判決

原告

山地義之(X)

右訴訟代理人弁護士

菅芳郎

杉本一志

被告

東京都港都税事務所長 宇波興宣(Y)

右指定代理人

江原勲

洗川文雄

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」の意義等について

1(一)  前記第二の一1記載のとおり、法が、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該登録価格により当該不動産の取得に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとした趣旨は、固定資産税の課税対象となる土地及び家屋の範囲は、発電所及び変電所が家屋に含まれることを除けば、不動産取得税の課税対象となる不動産と同一であり(法七三条一号ないし三号、三四一条二号、三号)、その価格も同じく適正な時価をいうものとされていること(法七三条五号、三四一条五号)などから、両税における不動産の評価の統一と徴税事務の簡素化を図ったものと解される。

(二)  すなわち、固定資産税の課税標準は、賦課期日における固定資産の価格で、固定資産課税台帳に登録されたものとされているが(法三四九条)、法は、固定資産課税台帳に登録される固定資産の価格が適正な時価であるようにするため、市町村長等が行う固定資産の評価及び価格の決定は自治大臣により定められた評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)に基づいて行うものとし(法三八八条以下参照)、決定された価格については固定資産税の納税者に不服申立ての機会を与える(法四三二条以下参照)などの規定を設けている。さらに、法は、固定資産のうち不動産については、税負担の安定と行政事務の簡素化を図る見地から、原則として三年ごとにその評価を行い、価格を決定した上、固定資産課税台帳にその価格を登録し、第二年度及び第三年度については、原則として、基準年度の登録価格をもってその登録価格とみなすこととし、一方、第二年度、第三年度において、「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」等が生じたため、基準年度ないし第二年度の価格によることが不適当、不均衡となる場合には、これによらずに当該不動産に類似する不動産の基準年度の価格に比準する価格によることとしている(法三四九条二項、三項参照)。

そして、右のようにして評価、決定され、固定資産課税台帳に登録された価格は、基準年度の固定資産税の賦課期日における不動産の時価を示すものというべきであるが、不動産取得税の課税上、不動産の評価の統一性を確保し、また、極めて多数に上る不動産の取引等ごとに当該不動産の価格を評価、決定することの煩雑さを回避し、簡易で効率的な徴税を図るという見地からすれば、右登録価格を当該不動産の取得時の時価として取り扱うことは課税技術的に合理性があり、それによって税負担の公平を損なうなどの支障が生ずることは通常は考えられないことから、法は、都道府県知事が不動産取得税の課税標準である不動産の価格を決定するについては、固定資産課税台帳に当該不動産の価格が登録されている場合には、原則として、右登録価格によりこれを決定することとしたものと解されるのである。

2(一)  右の法の趣旨及び固定資産税における不動産の評価及び価格決定の仕組みに照らすと、法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」とは、当該不動産の評価が行われ、その価格が決定された年度の固定資産税の賦課期日後に、当該不動産につき、増築、改築、損壊、地目の変換その他特別な事情が生じ、その結果、右登録価格が当該不動産の適正な時価を示しているものとみて、右登録価格を基に不動産取得税の課税標準額を決定することが公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理と認められる事態に至った場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成四年(行ツ)第一九六号平成六年四月二一日第一小法廷判決・判例時報一四九九号五九頁参照)。

(二)  法七三条の二一第一項ただし書の趣旨が前示のとおりであるとすると、右ただし書にいう「特別の事情」には、当該不動産自体に物理的変動があった場合はもちろん、都市的諸施設の整備など当該不動産の価格に直接影響を与えるような周辺環境の著しい変動があった場合が含まれるほか、賦課期日後に生じた地価の著しい下落といった事情も含まれ得るものと解されるが、地価の下落により当該不動産の取得時の時価が登録価格を下回ったというだけでは、右ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するということはできず(最高裁昭和四六年(行ツ)第九号昭和五一年三月二六日第二小法廷判決・判例時報八一二号四八頁参照)、賦課期日後の地価の下落により、当該不動産の取得時における時価とその登録価格に乖離が生じ、それが公平な税負担の観点からみて看過できない程度に達した場合に初めて、右ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当することになるものというべきである。

(三)  なお、原告は、法七三条の二一第一項ただし書にいう登録価格により難い「特別の事情」を、固定資産税の賦課期日後に生じた事情に限るのは相当でなく、当該不動産の取得時における「適正な時価」と登録価格が著しくかけ離れている場合には、それが賦課期日の後に生じたものであるか、賦課期日の前に生じたものであるかを問わず、右の「特別な事情」に当たるものと解すべきである旨主張するが、原告の右主張は、前記1で説示した法の趣旨に反するものであり、採用することができない。

二  本件賦課決定における課税標準額の適否について

1(一)  原告は、本件賦課決定における課税標準額は、本件各持分の取得時における「適正な時価」を著しく上回るものであるから、本件賦課決定は違法である旨主張する。

(二)  しかしながら、前記一で説示した法七三条の二一第一項の趣旨からすれば、法は、都道府県知事が不動産取得税の課税標準である不動産の価格を決定するについては、固定資産課税台帳に当該不動産の価格が登録されている場合には、法七三条の二一第一項ただし書の場合に該当しない限り、自ら当該不動産の取得時における適正な時価を認定することなく、専ら右登録価格によりこれを決定すべきものとしていると解するのが相当であり、したがって、当該登録価格の決定自体に重大明白な瑕疵があり、その決定が無効とされる場合を除けば、仮に右登録価格が当該不動産の取得時における適正な時価と一致していなくとも、それが法七三条の二一第一項ただし書の場合に該当しない限り、右登録価格を基にしてされた不動産取得税の賦課決定は違法となるものではなく、不動産取得税の納税者は、右賦課決定の取消訴訟において、右登録価格が取得時の適正な時価ではないと主張して課税標準たる価格を争うことはできないものと解される(前掲最高裁昭和五一年三月二六日第二小法廷判決参照)。

(三)  本件賦課決定についてこれをみれば、原告が本件各持分を取得した時点において、固定資産課税台帳に本件各土地の価格が登録されていたことは前記第二の二2(二)(1)記載のとおりであり、本件各登録価格の決定自体にこれを無効とすべき重大明白な瑕疵が存するとの主張・立証はないから、仮に本件各登録価格が本件各土地の取得時における適正な時価と一致していなくとも、それが法七三条の二一第一項ただし書の場合に該当しない限り、本件各登録価格を基にしてされた本件賦課決定は違法となるものではないというべきである。

したがって、本件賦課決定における課税標準額と本件各持分の取得時における「適正な時価」とを比較して、前者が後者を著しく上回るものであるから、本件賦課決定は違法であるとする原告の主張は、不動産取得税の課税標準となる価格の決定方法について定めた法の規定を正解しないものであり、主張自体失当のものというべきである。

2(一)  そこで、本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するか否か、すなわち、本件各土地につき、固定資産税の賦課期日後に地目の変換その他特別な事情が生じ、その結果、本件各登録価格が本件各土地の適正な時価を示しているものとみて、本件各登録価格を基に不動産取得税の課税標準額を決定することが公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理と認められる事態に至ったか否かについて検討するに、原告は、本件各登録価格が決定された平成六年度の固定資産税の賦課期日である平成六年一月一日以後原告が本件各持分を取得した平成八年二月一五日までの間の地価の下落により、本件各登録価格と本件各土地の取得時における適正な時価との間に著しい乖離が生じたことをもって、本件各土地については登録価格により難い「特別の事情」がある旨主張する。

(二)  確かに、〔証拠略〕によれば、本件各土地の近隣の地価公示法による標準地の平成六年の公示価格(価格時点同年一月一日)と平成八年の公示価格(価格時点同年一月一日)を比較すると、別表1記載のとおり、平成六年から平成八年までの公示価格の下落率はおおむね四〇パーセントないし五〇パーセントであることが認められ、本件各土地の時価についても、本件各登録価格が決定された平成六年度の固定資産税の賦課期日である平成六年一月一日以後原告が本件各持分を取得した平成八年二月一五日までの間に右と同程度の下落があったものと推認される。

しかしながら、本件各持分に係る不動産取得税については、法附則一一条の五第一項の定める不動産取得税の課税標準の特例により、その課税標準額は本件各登録価格を基に計算した本件各持分の価格の二分の一の額とされ、基準年度である平成六年度の固定資産税の賦課期日後、本件各持分の取得時までに生じた地価の下落については、課税の適正が損なわれないよう法律上の手当がされているのであって、右特例により課税標準額が減額される割合と平成六年一月一日から原告による本件各持分の取得時までの本件各土地の時価の下落の程度を比較すれば、本件各土地については本件各登録価格と時価との間に生じた乖離が、公平な税負担の観点からみて看過し難い程度に達しているということはできない。

この点に関し、原告は、前記の本件各土地の近隣の標準地の平成八年の公示価格自体、当該土地の実際の時価よりもはるかに高額であり、実際の時価は右の公示価格の下落率よりも更に下落しており、原告による本件各持分の購入価格四二五七万円がその取得時における「適正な時価」に近接する価格である旨主張する。そして、本件家屋のその敷地の持分である本件各持分の価格を含めた一平方メートル当たりの価格は四三万四四〇四円となるところ、原告は、平成八年二月から同年五月にかけて東京地方裁判所の競争手続において開札が予定されていた物件のうち、本件各土地の近隣において本件家屋と同様に昭和四〇年代前後に建てられた区分所有に係る建物の専有部分のその敷地の持分価格を含めた一平方メートル当たりの価格(最低売却価格により計算したもの)は、別表2記載のとおり、いずれも五〇万円未満であり(甲一四)、このことは原告の右主張を裏付けるものであるかのようにいう。

しかしながら、区分所有に係る建物の敷地の持分を一定の価格で取得した場合において、右価格を前提とした当該敷地の一平方メートル当たりの価格は、右敷地の面積に右持分割合を乗じて算出した右持分に相当する面積をもって右価格を除して算定すべきものであり、原告主張のように本件家屋のその敷地の持分である本件各持分の価格を含めた一平方メートル当たりの価格を他の物件のそれと比較して価格が適正かどうかを議論することは意味を持たないというべきである。かえって、原告による本件各持分の購入価格を前提にすると、本件各土地の一平方メートル当たりの価格は、本件各土地の合計面積二八九・二四平方メートルに原告の取得した持分割合一〇〇〇分の一八四を乗じて算出した原告の本件各持分に相当する面積五三・二二平方メートルをもって、右購入価格を除して得られる金額七九万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となるが、本件各土地の近隣の地価公示法による標準地である港区六本木四丁目二〇番四の平成八年の公示価格は、一平方メートル当たり一八六万円であり、右公示価格一八六万円の平成六年度の右標準地の登録価格四三一万円(乙三)に対する割合を本件各土地の平成六年度の登録価格に乗じて計算すると、右公示価格に比準した本件各土地の一平方メートル当たりの価格は、一六六万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となるのであって、右価格と対比してみれば、原告は本件各持分をその取得時の時価よりも相当程度低い価格で取得したことが推認できる。右認定を覆し、原告の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

他に本件各持分に係る不動産取得税の課税標準額を決定するについて、本件各登録価格により難い特別の事情が存するものと認めるに足りる証拠はない。したがって、本件各土地について登録価格により難い「特別の事情」がある旨の原告の前記主張は採用することができず、本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するものと認めることはできない。

3  そうすると、本件各持分に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格については、法七三条の二一第一項本文により、本件各登録価格を基にこれを算定すべきことになるから、被告が本件各登録価格を基に本件各持分の価格を算定した上で、法附則一一条の五第一項の定める不動産取得税の課税標準の特例を適用して課税標準額を決定して行った本件賦課決定は適法というべきである。

第四 結論

よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)

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